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最高裁判所第一小法廷 昭和51年(オ)1060号 判決 1977年3月03日

上告人

梶山隼史

右訴訟代理人

下向井貞一

被上告人

菅野勲

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人下向井貞一の上告理由第一点及び第三点について

農地を賃借していた者が所有者から右農地を買い受けその代金を支払つたときは、当時施行の農地調整法四条によつて農地の所有権移転の効力発生要件とされていた都道府県知事の許可又は市町村農地委員会の承認を得るための手続がとられていなかつたとしても、買主は、特段の事情のない限り、売買契約を締結し代金を支払つた時に民法一八五条にいう新権原により所有の意思をもつて右農地の占有を始めたものというべきである。これと同旨の見地に立つて、被上告人は売買契約を締結し代金を支払つた日に本件土地につき新権原により所有の意思をもつて占有を始めたものということができるとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同第二点について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(岸盛一 下田武三 岸上康夫)

上告代理人下向井貞一の上告理由

一、第一点 法律違反、審理不尽、理由不備違法

不動産売買における所有権移転の効力は当事者の意思表示のみに因つて其の効力を生ずるから、買受不動産に対する譲受人の占有は其の時から、所有の意思を以て占有を始めたと認められるけれども、農地法の適用を受ける農地売買における所有権移転については県知事の許可を要するから、当事者の意思表示のみに因つては其の所有権は移転しない、したがつて其の許可あるまでの占有については特別の事情のない限り、買主が所有の意思を以て占有を始めたと認めることはできない筈である。

ところで、被上告人の本件土地を含めた同所三四九〇番地の一、田、四畝二九歩に対する当初の占有は、訴外元井静一から借地したことから、始まつた他主占有のところ原審認定のとおり、仮令被上告人が昭和二四年一〇月一七日に同農地を所有者との間で売買契約を締結しても、其の契約にもとづく所有権移転については県知事の許可又は農地委員会の承認がないので、被上告人が其の売買契約を以て新権原による所有の意思を以て占有を始めたとは認められない。

それを原審が何等特別の事情を示すことなく「本件土地が当時農地であつて所有権移転に必要な知事の許可又は農地委員会の承認の手続がとられなかつた事実は被控訴人の所有の意思の存在を認める妨げとならない」と認定したことは占有に関する法律解釈を誤り、延いて審理不尽、理由不備の違法がある。

二、第二点 採証法則、経験則違反<以下省略>

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